先端材料開発
要素技術の深化と探索
私達の主力商品はゴム製品の補強用コードです。例えば、タイヤの骨格にはタイヤコードと言われる補強コードが使われています。自動車では、ブレーキの油圧を伝えるブレーキホースや、カーエアコンの冷媒ガスを循環させるエアコンホース、冷却水を循環させるラジエーターホースなどのゴムホース類に補強コードが使用されています。また、タイミングベルトやVベルトなどにも抗張体として補強コードが入っています。私達の技術は、街で見かける普通自動車からレーシング用自動車まで幅広く使用されています。
用途や部材によって適した繊維を選定し、撚糸・熱処理によって最適なコードを造ります。私達が上市している商品、開発中の各種コードの応力-ひずみ曲線(強伸度曲線)の例を図1に示します。図1の強度の単位、MPaは面積当たりの強度、cN/dtexは質量当たりの強度です(繊維の世界では長さ10,000m当たりの質量をグラムで表した数をdtexといい繊度という言葉で表します)。強度といっても見方でずいぶんイメージが変わってきますね。
図1. 当社製品および開発品の応力-ひずみ曲線の例
- 繊維について
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一般に合成繊維は複数の単糸(フィラメント)から構成されます。そのフィラメントはマクロフィブリルという繊維の集合体から構成され、マクロフィブリルはフィブリルという繊維の集合体から構成され、さらに、フィブリルはミクロフィブリルという繊維の集合体から構成されます。ミクロフィブリルは複数のポリマの分子鎖から形成されます。大きさのイメージは図2のとおり、ミクロフィブリルは0.01μm=10ナノメートルのオーダーです。最初に「合成繊維は」と書きましたが、実はこの構造、髪の毛も同じようなものです。合成繊維と天然繊維、作り方が大きく違うのに不思議ですね。
ナノオーダーのミクロフィブリルの状態を制御することにより繊維物性が造られます。同じポリマを使用しても繊維の製造条件や接着剤加工時の熱処理の条件によって物性を調整できます。私達は製糸メーカーと共同で製糸条件にまで立ち入って、お客様に最適な製品を造り込むこともあります。図2.繊維の構造
「Sawyer,L.C. & Jaffe,M(1986) The structure of themotropic copolyesters, Jounal of Matcrials Science,21,1897-1913」を基に加工した - 接着剤について
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補強コードにゴムの補強作用を発揮させるには、ゴムの中に繊維を埋没させるだけでは十分でありません。繊維とゴムとを接着させる必要があります。また、ゴムも繊維も大きく変形しますので、接着剤も変形に追随する必要があります。
古くから繊維とゴムの接着にはレゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂とゴムラテックスの混合物(通称、RFL)が使われてきました。レゾルシン-ホルムアルデヒド樹脂(RF樹脂)の原料はいたってシンプルです。レゾルシン(C6O2H6)とホルムアルデヒド(HCHO)と触媒だけです。しかしながら、同じ原料を用いても混合比率や反応条件によってさまざまなRF樹脂を造ることができます。
レゾルシンとホルムアルデヒドの反応は、レゾルシンへのホルムアルデヒドの付加反応(脱水縮合)と、レゾルシン同士が反応する縮合反応があります。酸触媒下においては縮合反応が起こりやすくノボラック型のRF樹脂(熱可塑性樹脂;ある温度以上に加熱すると柔らかくなり、冷やすと硬くなる樹脂)となり、アルカリ触媒下においては付加反応が起こりやすくレゾール型のRF樹脂(熱硬化性樹脂;加熱すると硬化して元に戻らなくなる樹脂)になります。
RF樹脂にゴムラテックスやブロックイソシアネート等の接着助剤を加えて接着剤をつくります。できあがった接着剤は、ゴムと繊維との接着性を保ちながら、図3の応力-ひずみ曲線のように材料の変形に追随する伸びる接着剤になります。
設計の自由度が大きい分、製品開発者のアイデアがそのまま製品性能に反映されます。ここでは記載できませんが特殊な環境でRF樹脂を作製すると、数年間にわたり安定性を保ち、接着性も低下しないRFLをつくることもできます。図3.接着剤の応力-ひずみ曲線の例
- 最後に
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東レハイブリッドコードは、新製品開発や新プロセス開発とともに、基本となる要素技術を研究し深化を図っています。